業界別 熱中症対策ガイド

鉄鋼・溶接業の熱中症対策

溶鉱炉・電炉の極限環境で作業員の命を守る。輻射熱対策・防護服との両立・WBGT管理の実践ガイド。

約300件
鉄鋼業の
年間搬送数
約100件
炉前作業中の
年間発症数
60℃超
炉前の
作業場温度

1.鉄鋼・溶接作業場の熱中症リスク

鉄鋼・溶接業は、全産業の中でも最も過酷な高温環境で作業が行われる業種です。溶鉱炉・電炉からの輻射熱により、作業場の温度は60℃を超えることがあり、さらに溶接時の防護服が体からの放熱を妨げるため、体温が危険域まで上昇するリスクが極めて高くなります。

なぜ鉄鋼・溶接現場で熱中症リスクが極めて高いのか

  • 溶鉱炉・電炉の極端な輻射熱:溶鉄の温度は約1,500℃に達し、その輻射熱で炉前の作業場は60℃を超えます。気温だけでなく、強烈な赤外線による直接的な身体加熱が発生します
  • 防護服による放熱阻害:溶接作業では耐熱防護服・革手袋・溶接面の着用が必須です。これらの装備は体からの熱放散を著しく妨げ、体内に熱がこもります
  • 鋳造・圧延の高温環境:溶鋼の鋳造や赤熱した鋼材の圧延工程では、製品自体が高温の熱源となります。製品に近づく必要がある作業で、直接的な輻射熱を浴びます
  • WBGT計測の困難さ:強い輻射熱のある環境ではWBGT計の黒球温度計が飽和し、正確な値を示せないことがあります。標準的なWBGT管理だけでは不十分です
約300件
鉄鋼業における
年間熱中症搬送件数
約100件
炉前作業中の
年間発症件数
約80件
溶接作業中の
年間発症件数

出典:厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」、日本鉄鋼連盟安全衛生報告

2.過去の労災事例から学ぶ

鉄鋼・溶接現場での熱中症事故は、極端な高温環境の中で急速に重症化する点が特徴です。発症から意識障害まで数分というケースもあり、迅速な対応が生死を分けます。

事例1 製鉄所・転炉前作業

転炉の出鋼作業中に意識を失う

7月下旬、製鉄所の転炉で出鋼作業中、作業員が操作盤の前で突然倒れた。転炉からの輻射熱で作業場温度は58℃に達しており、防護服内の温度はさらに高かった。作業開始から2時間が経過しており、交代のタイミングが30分遅れていた。搬送時の深部体温は41.2℃を記録した。

教訓:炉前作業の交代ローテーションを厳守し、遅延を許さない体制を構築する。炉前作業は最大60分で強制交代とし、交代の引き継ぎ時間を作業時間に含めないルールを設ける。

事例2 造船所・溶接作業

船体ブロック内での溶接作業中に発症

8月上旬、造船所で船体ブロック内の溶接作業中に作業員が重度の熱中症を発症。密閉された鋼製の空間で換気が不十分なまま溶接を行い、溶接熱と鋼材からの輻射熱が蓄積。防護服と溶接面により放熱が妨げられ、作業開始から45分で体調が急変した。

教訓:密閉空間での溶接は強制換気を必ず併用する。鋼製構造物内は輻射熱が反射して蓄積するため、連続作業時間を30分以内に制限する。体調のセルフチェックと相互確認を義務化する。

事例3 圧延工場・夜勤帯

夜勤帯の圧延作業で脱水症状から重症化

8月中旬の深夜、圧延工場で赤熱した鋼材のライン監視作業中に作業員がめまいを訴えた。夜勤帯のため「涼しいはず」という思い込みがあったが、圧延ラインからの輻射熱で作業場温度は45℃。十分な水分補給を行わないまま6時間が経過し、重度の脱水状態に陥った。

教訓:鉄鋼業では夜勤帯でも高温環境は変わらない。「夜は涼しい」という誤った認識を正す教育が必要。24時間稼働の炉・ラインでは、昼夜を問わず同じ熱中症対策を実施する。

3.厚労省ガイドラインと法的義務

鉄鋼・溶接業は労働安全衛生法における「高温多湿作業場」に該当し、通常の職場以上に厳格な安全管理が求められます。厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要綱」に加え、高温作業場に特化した安全衛生規則の遵守が必要です。

鉄鋼・溶接業の事業者が遵守すべき義務

1
WBGT値の継続的な把握と記録

炉前・溶接場・圧延ライン近傍のWBGT値を定期的に計測する。輻射熱が強い環境では黒球温度計の計測位置を適切に設定する

2
輻射熱の遮断・低減措置

遮熱板・遮熱カーテンの設置、水噴霧冷却の活用、反射板の配置など、輻射熱を作業者に到達させない設備対策を講じる

3
作業時間管理と交代制の実施

炉前作業・溶接作業の連続時間を制限し、交代ローテーションを設ける。十分な冷却休憩時間を確保する

4
冷却休憩施設の整備

作業場近くに冷房を完備した休憩室を設置する。作業場から休憩室まで長距離を移動する必要がないよう配置する

5
特殊健康診断の実施

高温作業従事者に対する特殊健康診断を定期的に実施し、熱中症リスクの高い作業員を把握して配置転換等の措置を講じる

鉄鋼業特有の法的リスク

鉄鋼・溶接業での熱中症事故は、事業者が「高温環境であることを認識していた」ため、安全配慮義務違反が認められやすくなります。輻射熱対策、交代制の実施、休憩施設の整備が不十分な場合、重大な過失と判断される可能性が高くなります。

「業界の慣行に従っていた」では免責されません。最新のガイドラインに準拠した対策と、その実施記録を残すことが不可欠です。

4.現場で使える対策チェックリスト

鉄鋼・溶接現場の安全管理者・職長が毎日確認すべき項目です。各作業場の掲示板に掲示し、始業時ミーティングで活用してください。

作業開始前
  • 炉前・溶接場のWBGT値を計測し、交代サイクルを決定
  • 全作業員の体調を確認(睡眠・飲酒・持病・服薬の有無)
  • 遮熱板・遮熱カーテンの設置状態を確認
  • 冷房付き休憩室の稼働を確認。飲料水・経口補水液を補充
  • 交代要員の配置を確認(交代できない状況を作らない)
作業中
  • 炉前作業は最大60分で強制交代。溶接作業は最大30分で休憩
  • 休憩時は冷房の効いた部屋で最低15分間の身体冷却
  • 水分補給は作業中断時に必ず実施(1回200ml以上)
  • 作業員同士の相互監視。ふらつき・動作の鈍化を見逃さない
  • WBGT値の定期計測を継続。炉の操業状態変化に注意
  • 密閉空間での溶接は強制換気の稼働を確認
異常発生時
  • 直ちに高温エリアから離脱。溶接作業は即座に中止しトーチを安全な位置に
  • 防護服を脱がせて放熱を促進。冷房のある部屋に搬送
  • 全身の冷却を開始(氷水タオル、保冷剤で首・脇・鼠径部を冷やす)
  • 意識障害がある場合は直ちに119番通報。重症化が極めて速い
  • 同じ環境で作業していた他の作業員の体調も確認

5.WBGTを活用した作業管理

WBGT(暑さ指数)は気温・湿度・輻射熱を総合評価する指標ですが、鉄鋼・溶接業では輻射熱が極めて強いため、通常のWBGT管理をさらに強化した基準が必要です。炉前や溶接場では、WBGT値が25℃未満でも輻射熱による局所的な身体加熱に注意が必要です。

WBGT値 危険度 鉄鋼・溶接現場での対応
31℃以上 極度危険 炉前作業30分→冷房休憩30分。溶接作業は20分交代。全身冷却を徹底
28〜31℃ 厳重警戒 炉前作業45分→冷房休憩20分。溶接作業30分交代。水分補給を強化
25〜28℃ 警戒 炉前作業60分→冷房休憩15分。定期的な水分・塩分補給。巡視の強化
25℃未満 注意 通常交代サイクルで作業。ただし輻射熱の強い場所は個別にリスク評価

工場所在地のWBGT予報を確認

heat119では環境省データに基づく全国のWBGT予報を無料公開しています。外気のWBGT値は工場内環境を判断する参考指標になります。

6.heat119で鉄鋼現場の安全を守る

heat119は鉄鋼・溶接業の過酷な高温環境における熱中症予防にも活用いただけるサービスです。交代ローテーションの管理と、作業員一人ひとりの体調をデータで見守る科学的な安全管理を実現します。

WBGT自動通知

環境省のWBGT予報データを自動監視し、外気のWBGT上昇を検知して管理者に通知。外気温が上がると工場内の温度も上昇するため、事前の対策準備が可能になります。

作業員の体調見守り

作業前の体調申告と交代時の状態確認をスマホで記録。高温環境で急速に悪化する体調変化を、データとして把握できます。

危険アラート

作業員の体調異変を検知し、職長・安全管理者にプッシュ通知。炉前や溶接場という騒音の大きい環境でも、確実に情報を伝達できます。

法令遵守の記録管理

WBGT計測記録、交代ローテーションの実施記録、体調確認の履歴を自動保存。高温作業場の安全配慮義務の履行を客観的に証明できます。

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