警備業の熱中症対策
長時間の立哨・巡回業務で警備員の命を守るために。科学的根拠に基づく予防・管理・対応の実践ガイド。
熱中症死傷者割合
1.警備業の熱中症リスク
警備業は、炎天下での長時間立哨や巡回が求められるため、熱中症リスクが非常に高い業種です。特に交通誘導警備や施設外周警備では、直射日光を遮る場所がなく、制服着用による放熱制限も加わります。
なぜ警備業で熱中症が多いのか
- 長時間の立哨勤務:交通誘導や施設警備で数時間連続の立ち仕事が続き、身体的疲労と脱水が同時進行します
- 制服・装備の熱こもり:制服・ヘルメット・安全ベスト・無線機など装備が多く、体温放散が妨げられます
- 自由な水分補給の困難:持ち場を離れられず、水分補給のタイミングが限られることが多くあります
- 高齢者が多い労働構成:警備業は60歳以上の従事者が多く、加齢による体温調節機能の低下がリスクを高めます
- アスファルト上の輻射熱:道路や駐車場での警備は路面からの照り返しで実際の体感温度が大幅に上昇します
年間熱中症休業災害
発症者の中心年齢層
発症する割合
出典:厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」
2.過去の労災事例から学ぶ
警備業での熱中症事故には、業界特有のパターンがあります。持ち場を離れにくい業務特性が、発見や対応の遅れにつながるケースが多く見られます。
炎天下の道路工事現場での交通誘導中に倒れる
8月上旬、気温36℃の道路工事現場で交通誘導警備に従事していた62歳の男性警備員が、午後2時頃に路上で倒れた。同僚が発見したが意識がなく、救急搬送後に死亡。勤務開始から5時間が経過し、その間の休憩は1回10分のみだった。
教訓:交通誘導警備は2時間以内の交代制とし、十分な休憩時間を確保する。単独配置の場合は特に定期的な安否確認が必要。
商業施設の駐車場警備中に熱射病
7月下旬、大型商業施設の屋外駐車場で誘導警備に従事していた58歳の男性が、めまいと頭痛を訴えるも「もう少しで交代時間」と業務を継続。その後意識が朦朧とし、来店客が異変に気づいて通報。深部体温40.2℃の熱射病と診断された。
教訓:体調不良を感じたら即座に報告・交代できる体制が重要。「交代まで我慢」は致命的な判断ミスにつながる。
野外イベントの出入口で単独配置中に発症
8月中旬、野外音楽フェスティバルの出入口で単独配置されていた55歳の警備員が、勤務開始3時間後に来場者から「警備員が座り込んでいる」と報告。発見時には応答が鈍く、深部体温39.8℃だった。日陰のない場所で水分を十分に持っていなかった。
教訓:単独配置では30分ごとの無線での安否確認を義務化。日陰のないポストには必ず簡易テントと飲料水を配備する。
3.ガイドラインと法的義務
警備業の事業者は、労働安全衛生法に基づき警備員の安全と健康を守る義務があります。警備業法に基づく規制に加え、厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要綱」への対応も求められます。
事業者の法的義務
警備場所のWBGT値を事前に確認し、危険度に応じた勤務シフトの調整や交代要員の手配を行う
配置ポスト近くに日陰の休憩スペースと十分な飲料水・塩分補給食品を確保する
連続屋外勤務時間の上限を設定し、高温時は交代間隔を短縮する
勤務前の体調確認、持病・服薬状況の把握、高齢者への特別な配慮
全警備員への熱中症予防教育、初期症状の見分け方、緊急時の対応手順の周知
安全配慮義務違反のリスク
警備業者が適切な暑熱対策を講じず警備員が熱中症を発症した場合、安全配慮義務違反による損害賠償責任を問われます。特に単独配置で発見が遅れたケースでは、配置計画自体の妥当性が問われ、高額賠償に至った判例もあります。
警備計画書にWBGT対策を明記し、交代・休憩の記録を残すことが、法的リスクの低減に不可欠です。
4.現場で使える対策チェックリスト
警備隊長・管理者が毎日確認すべき項目です。このチェックリストを控室に掲示し、点呼時に活用してください。
- 天気予報・WBGT予報を確認し、危険度を全員に周知
- 全警備員の体調確認(睡眠時間・飲酒・持病の状態)
- 各配置ポストの飲料水・塩飴・経口補水液を補充
- 交代要員のシフト表を確認、高温時の短縮交代を予定
- 冷却グッズ(冷却タオル・保冷剤ベスト)の準備と配布
- WBGT値を1時間ごとに確認し、交代間隔を調整
- 単独配置の警備員には30分ごとに無線で安否確認
- 水分補給の声かけ(20分に1回、コップ1〜2杯を目安)
- 巡回時に各ポストの警備員の顔色・応答を確認
- 連続屋外勤務は2時間を上限とし、必ず日陰で休憩を挟む
- 高齢の警備員は日陰ポストへ優先配置
- 直ちに勤務を中止し、日陰・冷房のある場所に移動
- 制服・安全ベストを脱がせ、体を冷やす(首・脇・鼠径部に保冷剤)
- 意識がある場合は経口補水液を少しずつ摂取させる
- 意識障害・けいれん・自力歩行不可の場合は即座に119番通報
- 代替要員を手配し、空きポストの警備体制を確保
5.WBGTを活用した勤務管理
WBGT(暑さ指数)は、気温・湿度・輻射熱を総合的に評価する指標です。警備業では立哨や巡回のように中程度の身体的負荷が長時間続くため、WBGT値に基づいた交代制の見直しが重要です。
| WBGT値 | 危険度 | 警備業での対応 |
|---|---|---|
| 31℃以上 | 危険 | 屋外立哨は原則中止。やむを得ない場合は30分交代+30分休憩を厳守 |
| 28〜31℃ | 厳重警戒 | 1時間交代制。日陰での休憩を必ず確保。単独配置は15分ごとに安否確認 |
| 25〜28℃ | 警戒 | 2時間交代制。水分・塩分補給の促進。巡回頻度の強化 |
| 25℃未満 | 注意 | 通常勤務可。ただし制服の熱こもりに注意し、定期的な水分補給を継続 |
6.heat119で警備員の安全を守る
heat119は警備業を含む屋外労働者向けに開発された熱中症予防サービスです。分散した配置ポストの警備員を一元的に見守り、異変を早期に検知できます。
WBGT自動通知
配置先エリアのWBGT予報をリアルタイムで監視し、基準値超過時に隊長・管理者へ自動通知。交代シフトの判断を支援します。
警備員の体調見守り
勤務前の体調申告と勤務中の定期確認をスマホで簡単に実施。離れた配置ポストの警備員の状態をリアルタイムで把握できます。
危険アラート
体調確認への未応答を即座に検知し、隊長へ通知。単独配置の警備員の異変にいち早く気づけます。
勤務記録の自動保存
体調確認の実施記録、WBGT値、対策の履歴を自動保存。安全配慮義務の履行を客観的に証明できます。