労働安全衛生法に基づく熱中症対策義務
事業者が法令上負う5つの措置義務を解説。違反した場合の罰則と、heat119を使った法令遵守の実現方法を紹介します。
根拠条文
最終改正
罰金上限
1.労働安全衛生法と熱中症対策の位置づけ
職場における熱中症対策は、複数の法令と指針によって事業者の義務が定められています。法令の体系を正確に理解することが、適切な対策の出発点となります。
労働安全衛生法第22条(健康障害の防止)
「事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害」
熱中症は高温環境による健康障害であり、本条が適用されます。違反した場合は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
労働安全衛生規則第617条(暑熱場所の措置)
「事業者は、著しく暑熱な場所における業務に労働者を従事させる場合は、労働者を高温多湿作業場所(略)に適応させるために、必要な期間、その者の作業時間を短縮する等適切な措置を講じなければならない。」
暑熱順化(acclimation)に必要な期間の作業調整を義務付けた規定です。特に夏季開始時・連休明けに適用されます。
厚労省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年改正)
令和3年(2021年)4月に改正されたこの要綱は、事業者が講じるべき熱中症対策の具体的内容を示した行政指針です。法的拘束力はないものの、安全配慮義務の判断基準として裁判でも参照されます。
要綱のポイント:WBGT値の活用・暑熱順化の徹底・ハイリスク者への配慮が新たに強調されました。
2.事業者に求められる5つの措置
厚労省の要綱は、事業者が講じるべき措置を5つのカテゴリに整理しています。これらすべてを実施・記録することが、法令遵守の基本となります。
WBGT値の把握
WBGT(湿球黒球温度)は、気温・湿度・輻射熱を総合的に評価する「暑さ指数」です。厚労省は事業者に対してWBGT値の継続的な把握と、基準値を超えた場合の対応を求めています。
WBGT計(黒球温湿度指数計)を作業場所に設置し、1時間ごとに計測・記録する
計測器がない場合は環境省の暑さ指数予報を活用(ただし現場実態との差異を把握した上で)
WBGT基準値(警戒:25℃、厳重警戒:28℃、危険:31℃)に基づくアクションプランを策定・周知する
WBGT値を作業員全員が確認できるよう掲示・共有する体制を整える
作業環境管理(日よけ・休憩所・冷房・飲料水)
物理的な作業環境を整備し、労働者が暑熱から保護されるよう設備を整えます。これは「ハード対策」の核心であり、裁判所も重視する義務です。
日よけ・遮光ネット・テント・シェードを設置し、輻射熱・直射日光を遮蔽する
エアコン・ミストファン・送風機を備えた涼しい休憩場所を作業場所の近くに確保する
冷たい飲料水・経口補水液・塩分補給食品を無料で常備し、自由に摂取できる環境を整える
冷却機能付き作業服・冷却ベスト等の導入を検討し、高温作業者の体温上昇を軽減する
作業管理(作業時間短縮・暑熱順化・水分補給)
WBGT値や作業強度に応じた作業管理を実施します。「ソフト対策」として、ルールと仕組みの整備が重要です。
WBGT基準値超過時の作業時間短縮・休憩サイクル(例:30分作業→10分休憩)・作業中断のルールを策定する
夏季開始時・連休明けは暑熱順化期間(7日程度)を設定し、作業負荷を段階的に引き上げる
20〜30分ごとの水分補給(コップ1〜2杯)を義務付け、声かけや休憩の強制実施を徹底する
高温多湿環境では通気性の良い服装を推奨し、熱を吸収しやすい服装を避けるよう指導する
健康管理(健康診断・日常の健康管理・体調確認)
労働者の健康状態を把握し、ハイリスク者に適切な配慮を行います。「体調不良を知りながら無視した」という事実が、訴訟で企業の最大の敗因となります。
定期健康診断を実施し、高血圧・糖尿病・心疾患等の持病を把握した上で就業配慮を行う
毎日の作業開始前に全員の体調を確認し(睡眠・飲酒・食事・発熱の有無)、記録する
体調不良を申告した労働者の就労可否を管理者・産業医が判断し、その決定と理由を記録する
作業中も巡視・声かけにより継続的に労働者の状態を確認し、異常の早期発見に努める
労働衛生教育(症状・対処法の教育)
熱中症の予防・早期発見・応急処置についての教育を、毎年夏季前に実施します。教育の実施記録は義務の履行証拠として不可欠です。
熱中症の症状(軽症〜重症)と、重症の見分け方(意識障害・自力歩行不可)について教育する
発症時の応急処置手順(涼しい場所へ移動・体冷却・水分補給・119番通報の判断)を実技含めて教育する
WBGT値の読み方とアクションプラン(基準値ごとの対応)を全員に周知する
教育実施日・内容・参加者名簿を記録し、5年以上保存する(新規入場者は入場時に個別実施)
3.特に注意が必要なケース
要綱では、一般的な対策に加えて、特にハイリスクなケースへの個別配慮を求めています。これらのケースでは、通常よりも厳しい基準での管理が必要です。
新規入場者(暑熱順化不足)
高温環境に慣れていない新規入場者は、熟練者と同じWBGT管理では不十分です。最初の7日間は作業負荷を50〜80%に抑え、段階的に慣熱させる暑熱順化プログラムを実施します。
対策:入場初日に個別安全衛生教育を実施し、専任の監視者を配置する
高齢労働者
加齢により体温調節機能が低下し、発汗量が減少します。また、体調の変化に気づきにくく、自覚症状がないまま重症化するケースが多く見られます。60歳以上の労働者は特別な注意が必要です。
対策:より低いWBGT基準値を適用し、作業時間を短縮。定期的な声かけと体温計測を実施する
持病のある労働者(高血圧・糖尿病等)
高血圧・糖尿病・心疾患・腎臓病の持病がある労働者は、熱中症の重症化リスクが著しく高くなります。また、一部の薬剤(利尿剤・抗ヒスタミン薬等)は発汗を抑制し、リスクを高めます。
対策:産業医と連携し、就業可否・就業制限の内容を文書で確認した上で作業に従事させる
夜勤・交代制勤務者
夜勤明けに昼間の暑熱環境で作業する場合、睡眠不足・体温調節リズムの乱れが重なり熱中症リスクが上昇します。特に夜勤→日勤の切り替わり時の管理が重要です。
対策:夜勤明け直後の高温環境作業を禁止し、十分な休息を確保した後に就労させる
4.発生時の報告義務
熱中症が発生した場合、事業者には労働基準監督署への報告義務があります。報告を怠ると罰則の対象となります。
4日以上の休業 → 労働者死傷病報告(様式第23号)
熱中症により4日以上休業が必要な場合、遅滞なく管轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告(様式第23号)」を提出しなければなりません。
提出内容:発生日時・場所・作業内容・被災状況・応急処置の内容・再発防止策
死亡・重大災害 → 直ちに労基署に口頭または電話で報告
熱中症による死亡、または3人以上が被災した場合は、直ちに(原則事故発生当日)管轄の労働基準監督署に口頭または電話で報告し、遅滞なく所定の報告書を提出します。
根拠:労働安全衛生法第96条・第97条
報告しない場合の罰則
労働者死傷病報告の提出を怠った場合、または虚偽の報告をした場合は、労働安全衛生法第120条第5号により50万円以下の罰金が科されます。
「軽傷だから報告不要」と判断して報告を省略すると、後に重篤化した際に義務違反が問題となることがあります。迷った場合は労基署に相談することを推奨します。
5.heat119で法令遵守を実現する
労働安全衛生法が求める5つの措置を、アナログで管理することは現場の大きな負担となります。heat119はこれらの措置を効率的に実施・記録するためのシステムを提供します。
WBGT自動取得・記録
環境省データを元にWBGT値を自動取得し、作業場所ごとに記録します。計測忘れがなく、完全な記録が自動生成されます。
毎朝の体調申告・記録
スマホから30秒で体調申告が完了。回答結果はリアルタイムで管理者が確認でき、体調不良者を即座に把握できます。
WBGT超過アラート
WBGT値が警戒・厳重警戒・危険レベルに達した際に、管理者へ自動でプッシュ通知。作業中断の判断を的確にサポートします。
法令対応レポート出力
月次・年次の管理記録をPDF出力。労基署への報告書作成や、訴訟対応に活用できる客観的なエビデンスを提供します。