安全配慮義務と熱中症
企業が負う法的義務を理解し、熱中症事故による損害賠償リスクから従業員と会社を守るための実践ガイド。
賠償上限目安
根拠条文
最重要要素
1.安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、使用者(企業・事業主)が労働者に対して負う法的義務です。労働契約法第5条は次のように定めています。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
— 労働契約法第5条(安全配慮義務)
この規定は、判例上長年にわたって認められてきた使用者の安全配慮義務を明文化したものです。熱中症対策においては、猛暑の作業環境であっても労働者が安全に働けるよう必要な措置を講じる義務が企業に課されています。
判例で認められた具体的な内容
- 作業環境の把握・管理:WBGT値(暑さ指数)を計測・確認し、危険な環境下での作業を制限する義務
- 設備・環境の整備:日よけ・休憩所・冷房・飲料水など、熱中症を防ぐための環境を整える義務
- 健康状態の把握:労働者の体調を定期的に確認し、体調不良者を無理に就労させない義務
- 教育・情報提供:熱中症の危険性・予防法・発症時の対応について労働者に教育する義務
- 緊急時の対応体制:熱中症発症時に迅速に救護できる体制を構築する義務
出典:労働契約法第5条、最高裁判所昭和59年4月10日判決(陸上自衛隊事件)
2.熱中症事故で問われる法的責任
職場で熱中症事故が発生した場合、企業・事業主は複数の側面から法的責任を問われる可能性があります。
安全配慮義務違反による損害賠償
安全配慮義務違反が認定されると、被災労働者や遺族から損害賠償請求を受ける可能性があります。労災保険給付とは別に、慰謝料・逸失利益・治療費等の賠償が求められます。
賠償額の目安
- ・ 死亡事故:数千万円〜1億円(遺族への慰謝料・逸失利益を含む)
- ・ 重篤後遺障害(植物状態等):1億円超のケースあり
- ・ 重症だが回復:数百万〜数千万円
業務上過失致死傷罪
労働者が死亡・重傷を負った場合、安全管理を怠った管理者・事業主が業務上過失致死傷罪(刑法第211条)に問われるケースがあります。有罪となると、5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金が科されます。
労働基準監督署による是正勧告・使用停止命令
熱中症事故が発生した場合、労働基準監督署の調査を受け、是正勧告・改善指示が出されます。労働安全衛生法違反が認定されると、作業停止命令・使用停止命令が発令されることもあります。
重要なポイント
労災保険が適用されても、企業の損害賠償責任は消滅しません。労災保険は被災者への最低限の補償であり、民事損害賠償は別途請求されます。
3.判例に学ぶ
実際の裁判例から、企業がどのような行為によって責任を問われ、あるいは免責されたかを学ぶことが重要です。
WBGT未計測で作業続行 → 死亡事故 → 約5,000万円の賠償命令
WBGT値を一度も計測せず、気温・湿度の管理も不十分なまま屋外作業を続行させた。作業員が熱中症で倒れ、搬送先で死亡。裁判所は「WBGT値の計測・管理は事業者の義務」と認定し、約5,000万円の損害賠償を命じた。
企業側の敗因:WBGT未計測・作業中断基準なし・体調確認未実施の三重の義務違反が認定された。
体調不良申告を無視 → 重度後遺障害 → 約8,000万円の賠償命令
作業員が「頭痛・めまいがある」と申告したにもかかわらず、管理者が「気合いが足りない」として作業継続を指示。作業員は意識を失い、後遺障害(高次脳機能障害)が残った。裁判所は体調申告の無視を重大な義務違反と認定。
企業側の敗因:体調不良の申告を記録せず、かつ適切な対応を取らなかった事実が決定的となった。
対策を実施し記録していた → 企業側勝訴
熱中症事故が発生したが、企業はWBGT値の日次記録・毎朝の体調確認記録・安全衛生教育の実施記録・休憩管理の記録を整備していた。裁判所は「企業として合理的な安全配慮義務を果たしていた」と認定し、企業側の請求棄却を認めた。
企業側の勝因:「対策を実施した」という記録が客観的証拠として機能した。記録なき対策は、法的には「対策なし」と同様のリスクを持つ。
4.安全配慮義務を果たすための5つの対策
厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年改正)に基づく、事業者が講じるべき具体的措置です。
WBGT値の測定・記録
作業場所に近い場所でWBGT値(暑さ指数)を計測し、記録として保存します。計測器がない場合は環境省の暑さ指数予報を活用しますが、現場の実態と乖離がないか確認が必要です。
- ・ WBGT計(黒球温湿度指数計)を作業場所に設置
- ・ 1時間ごとに計測・記録を実施
- ・ WBGT基準値(28℃・31℃)超過時のアクションプランを策定
作業環境の整備(日よけ・休憩所・飲料水)
物理的な作業環境を整え、労働者が暑熱から保護されるよう設備を整備します。
- ・ 直射日光を遮る日よけ・テント・シェードの設置
- ・ エアコン・ミストファンを備えた涼しい休憩所の確保
- ・ 無料で利用できる飲料水・塩分補給食品の常備
作業管理(基準値超過時の中断ルール)
WBGT値に基づいた明確な作業管理ルールを定め、全員が守れる体制を構築します。
- ・ WBGT28℃超:こまめな休憩と水分補給の義務化
- ・ WBGT31℃超:作業中断・交替制の導入
- ・ 梅雨明け直後・連休明け:暑熱順化期間(7日程度)の設定
健康管理(毎朝の体調確認・暑熱順化)
作業開始前の体調確認と、高リスク者への個別対応を実施します。
- ・ 毎朝の体調申告(睡眠・飲酒・体温・既往症など)の実施と記録
- ・ 体調不良者・持病保有者の就労可否判断
- ・ 高齢者・新規入場者への配慮と段階的な業務調整
安全衛生教育の実施と記録
シーズン開始前・新規入場時に熱中症予防教育を実施し、その記録を保存します。
- ・ 毎年夏季前に全員対象の安全衛生教育を実施
- ・ 熱中症の症状・初期対応・救急要請の判断基準を教育
- ・ 参加者名簿・教育実施記録を5年以上保存
5.記録が企業を守る
安全配慮義務の履行において、「実施した」という記録こそが法的証拠となります。どれほど熱心に対策を行っていても、記録がなければ裁判で「対策を怠った」と同様のリスクを抱えることになります。
保存すべき記録一覧
日時・場所・計測値・担当者名を含む計測記録。毎日・定時に実施した証跡。
毎朝の体調申告内容・確認者・判断結果(就労可否)を含む記録。
教育実施日・内容・参加者名簿・担当者署名を含む記録。5年以上保存推奨。
WBGT値に基づく作業中断・休憩実施の記録。基準値超過時の対応記録。
heat119で自動記録を実現
これらの記録をアナログ(紙・Excelなど)で管理することは現場の負担が大きく、記録漏れのリスクもあります。heat119は上記の記録をシステムで自動的に蓄積し、必要な時にレポートとして出力できます。
heat119の機能を見る6.heat119で安全配慮義務を果たす
heat119は、企業が安全配慮義務を確実に履行するために必要な機能を一つのシステムに集約しています。対策の実施から記録の保存まで、法的リスクを最小化するためのツールです。
WBGT自動記録
環境省データを元にWBGT値を自動取得・記録。計測忘れゼロで、法的証拠となる完全な記録を自動生成します。
体調管理記録
毎朝のスマホ体調申告を自動収集・保存。誰が・いつ・どのような体調だったかを完全に記録します。
アラート履歴
危険アラートの発令・受信・対応の履歴を自動保存。「危険を把握していた」「適切に対応した」という証拠を残します。
レポート出力
月次・年次の安全管理レポートをワンクリックで出力。労基署への報告・訴訟対応に使える客観的な記録を提供します。