鉄道・インフラ業の熱中症対策
レールの輻射熱・限られた間合い・架線作業の危険。保線現場で作業員の命を守る実践ガイド。
表面温度
限られた作業時間
架線リスクが複合
1.鉄道・インフラの熱中症リスク
鉄道・インフラ業の保線作業は、炎天下の線路上での重装備作業と、終電後から始発前の深夜・早朝に集中する「間合い」作業という二つの極端な環境にさらされます。加えて架線(電線)や列車の接近という命に直結する危険要素があり、熱中症による意識障害は転落・感電事故に直結します。
鉄道・インフラ業で熱中症が起きやすい場面
- レール・枕木からの強烈な輻射熱:真夏の日中、鉄製レールの表面温度は60℃を超えることがあります。線路上は気温よりも体感温度が10〜15℃高くなり、地面からの熱が全身を包みます
- 限られた作業時間での集中作業:終電後から始発前の「間合い」は数時間しかなく、その短時間に重労働が集中します。深夜であっても夏場は気温が下がりきらず、暑熱順化が不十分なまま過酷な作業を行うリスクがあります
- 架線作業・高所作業の複合危険:架線付近では意識障害が感電・転落事故に直結します。通常の建設高所作業以上に厳格な体調管理が求められます
- 重装備による放熱困難:保線作業では安全帯・ヘルメット・反射ベスト・安全靴の着用が義務付けられており、体からの熱が逃げにくい状態で作業を行います
- 夏場の昼間作業増加:ダイヤ改正・大規模保守工事では間合い時間外の昼間作業が発生することがあります。日中の線路上は最も過酷な高温環境です
表面温度
暑熱順化の乱れ
架線電圧の危険
2.過去の労災事例から学ぶ
鉄道保線現場の熱中症事例は、他の業種と異なる深刻な二次災害リスクを伴います。過去の事例を知り、同じ悲劇を繰り返さない対策につなげてください。
真夏の日中線路上での熱中症発症
工事計画変更により間合い時間外の日中に保線作業が実施された。線路上の気温は気象観測値より15℃以上高く、重装備の作業員が次々と体調不良を訴えた。WBGT計を携行していなかったため危険水準の把握が遅れ、複数名が熱中症を発症した。
教訓:日中作業が発生する場合は必ずWBGT計を携行し、線路上の実測値に基づいて作業中断基準を設ける。気象観測地点の気温をそのまま使用しない。
架線作業中の意識朦朧による感電事故リスク
夏場の深夜間合い作業中、架線付近での高所作業を行っていた作業員が突然ふらつき、架線に接触しかけた。本人は「気づいたら体がおかしかった」と証言。熱中症の初期症状(判断力低下・ふらつき)が感電事故に直結する危険があると改めて認識された。
教訓:架線付近での作業は必ず2人以上で行い、互いの体調を監視する。「おかしい」と感じたら即座に作業を中止し、安全な場所に移動する体制を明確にしておく。
トンネル内での高温多湿環境による熱中症
地下鉄トンネル内の保線作業で、密閉された空間の高温多湿(気温35℃・湿度90%超)の中、換気が不十分なまま作業が継続された。「外よりは涼しい」という思い込みが判断を遅らせ、複数の作業員が体調を崩した。トンネル内はWBGT値が屋外よりも高くなるケースがある。
教訓:トンネル内だからといって安全とは限らない。密閉空間では湿度が高く、実際のWBGT値は外気以上になることがある。携帯型WBGT計で実測し、換気設備の稼働を確認する。
3.ガイドラインと法的義務
鉄道保線作業は、労働安全衛生法の一般的な義務に加え、鉄道固有の安全規制が適用されます。元請(鉄道会社)と下請(保線会社)の双方が安全管理体制を整備する責任を負います。
鉄道・インフラ業の法的義務
鉄道事業者は保安規程に基づく安全管理を義務付けられており、作業員の健康状態確認・体調管理を含む安全体制の整備が求められます
鉄道・運輸機構の工事安全ガイドラインでは夏季の作業における体調管理・WBGT計測・休憩確保が明示されています
鉄道会社(元請)は線路内作業を発注する下請保線会社の安全管理状況を把握・指導する義務があります。安全配慮義務は下請作業員にも及びます
架線付近の作業や高所作業では、労働安全衛生規則に基づく特別教育・健康管理が求められます。熱中症による意識障害は感電・転落という重大災害に直結するため、安全配慮義務は特に厳格に適用されます
安全配慮義務違反のリスク
保線作業中の熱中症事故では、熱中症による損害だけでなく、それに続く感電・転落事故の損害も含めて安全配慮義務違反が問われます。「夜間だから大丈夫」「短時間だから問題ない」という判断は法的に通用しません。対策の実施記録を残すことが重要です。
体調確認・WBGT計測・作業中断判断を記録として残しておくことが、万一の事故時の法的証拠になります。
4.対策チェックリスト
保線作業の形態(日中作業・夜間間合い作業)に応じて、それぞれ異なる対策が必要です。作業班リーダーが毎回確認してください。
- WBGT計を線路上で実測し、気象観測値との差異を確認(線路上は+10〜15℃になることがある)
- 携行飲料水1人あたり2L以上・塩飴を用意し、20分毎の水分補給を徹底
- 遮熱シート・日よけテントを線路横の待機場所に設置
- WBGT28℃以上で連続作業30分以内、31℃以上で作業中断を作業計画に明記
- 全作業員の朝の体調確認(睡眠・飲酒・朝食の有無)を記録
- 体調不良を訴えた作業員は当日の同作業への復帰を禁止
- 「夜間だから涼しい」の思い込みを排除し、WBGT計で実測してから作業を開始
- 暑熱順化計画を立て、梅雨明け直後・連休明けは作業負荷を段階的に引き上げる
- 夜間作業前の睡眠・疲労状態を確認し、睡眠不足の作業員は高リスク者として管理
- 照明下での温度計測を行い、照明機材の発熱による局所温度上昇を確認
- 架線作業は必ず2人以上で実施し、1人がもう1人の体調を常時監視
- 間合い終了時刻を考慮した撤収タイムラインを設け、焦りによる安全確認省略を防ぐ
5.WBGTを活用した作業管理
鉄道保線現場は、場所と時間帯によってWBGT環境が大きく異なります。線路上の日中作業、トンネル内作業、深夜の間合い作業では、それぞれ異なるリスク水準の把握が必要です。気象台のデータではなく、現場での実測値を基準にしてください。
| 場面 | 想定WBGT | 対策 |
|---|---|---|
| 線路上(日中・晴天) | 33〜38℃ | WBGT31℃超で作業中断。10分毎の水分補給 |
| トンネル内(夏季) | 30〜35℃ | 換気設備稼働確認。携帯型WBGT計で実測必須 |
| 深夜間合い作業(夏季) | 25〜30℃ | 「夜だから安全」の油断禁止。WBGT実測後に作業開始 |
| 駅構内(ホーム・コンコース) | 28〜32℃ | 空調があっても作業部位は高温。局所計測を実施 |
6.heat119で保線現場の安全を守る
heat119は鉄道・インフラ保線現場の特殊な作業環境に対応した熱中症予防サービスです。日中作業・夜間間合い作業の双方で、リアルタイムの体調把握と安全記録の自動化を実現します。
保線作業のWBGT監視
環境省のWBGT予報データをリアルタイムで監視し、基準値超過時に班長・管理者へ即座に通知。線路上の実態に合わせた危険水準の設定が可能です。
作業班の体調一括管理
作業開始前の体調申告をスマホで簡単に収集・一覧表示。班員全員の状態を班長がひと目で把握し、危険な状態の作業員を早期に発見できます。
間合い作業の安全記録
間合い開始から終了まで、体調確認・WBGT計測・作業内容を時系列で自動記録。終電〜始発の短い時間での安全管理を効率化します。
元請報告用データ
鉄道会社(元請)への安全管理報告に必要なWBGT記録・体調確認記録・対策実施履歴をまとめて出力。安全配慮義務の履行を客観的に証明します。