熱中症労災の報告義務
職場で熱中症が発生した場合、事業者には労働者死傷病報告の提出が義務付けられています。報告の手順・期限・様式、そして報告遅延のリスクを解説します。
報告様式
報告期限
罰金上限
1.熱中症はなぜ「労災」になるのか
熱中症は、一定の条件を満たす場合に業務上疾病(労災)として認定されます。労災認定の判断基準は「業務起因性」と「業務遂行性」の2つの要件です。
「業務に起因する明らかな原因により、労働者が熱中症を発症した場合、労働基準法施行規則別表第1の2第2号8に基づき、業務上疾病として取り扱う。」
-- 厚生労働省「熱中症の労災認定基準」(基発0520第2号)
業務遂行性
労働者が事業主の支配・管理下にある状態で発症したこと。具体的には、就業時間中に作業場所で発症した場合が該当します。通勤途中や休憩時間中であっても、業務に関連する移動中や待機中であれば認められるケースがあります。
- ・ 屋外作業中(建設現場、道路工事、農作業など)
- ・ 工場・倉庫内での高温環境下の作業中
- ・ 炎天下での移動・運搬作業中
- ・ 猛暑日の屋外警備・交通誘導中
業務起因性
熱中症の発症が業務に起因すること。高温多湿な作業環境・長時間の連続作業・十分な休憩や水分補給が確保されていなかったことなどが要因として認められます。
- ・ 作業環境の温度・湿度(WBGT値)が高い
- ・ 長時間の連続作業で体温が上昇した
- ・ 暑熱順化が不十分な状態での作業
- ・ 休憩所・飲料水の不備で十分な対策が取れなかった
労災認定の具体的な判断基準
厚生労働省の通達では、以下の4点を総合的に判断して労災認定を行うとされています。
- 1 作業環境:気温・湿度・WBGT値・輻射熱の有無など作業場所の温熱条件
- 2 作業内容:身体的負荷の程度、連続作業時間、作業強度区分
- 3 発症前後の状況:体調の変化、自覚症状の有無、応急処置の有無
- 4 個人的要因:既往歴、持病、年齢、暑熱順化の状況(ただし個人的要因のみでは業務起因性は否定されない)
2.労働者死傷病報告の義務
労働安全衛生規則第97条により、労働者が就業中に負傷・疾病・死亡した場合、事業者は労働者死傷病報告を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。熱中症も業務上疾病に該当するため、この報告義務の対象となります。
休業4日以上の場合:様式第23号
熱中症により4日以上の休業が必要となった場合、事業者は「労働者死傷病報告(様式第23号)」を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。
- 提出期限:事故発生後「遅滞なく」(実務上は概ね1週間〜2週間以内)
- 提出先:事業場の所在地を管轄する労働基準監督署
- 提出方法:窓口持参、郵送、または電子申請(e-Gov)
様式第23号は個別の事故ごとに1件ずつ提出します。記載事項には発生日時、場所、被災者情報、災害の原因・状況などが含まれます。
休業1〜3日の場合:様式第24号
休業が1日以上4日未満の場合は、「労働者死傷病報告(様式第24号)」を四半期ごとにまとめて提出します。
- 提出期限:四半期ごと(1〜3月分→4月末、4〜6月分→7月末、7〜9月分→10月末、10〜12月分→翌1月末)
- 記載方法:四半期中に発生した同種災害を一括して記載可能
熱中症で数時間〜3日間の休業となった軽症ケースでも報告義務は免除されません。軽症だからと報告を怠ると「労災隠し」とみなされる恐れがあります。
死亡事故の場合:即時報告
熱中症により労働者が死亡した場合、事業者は直ちに所轄の労働基準監督署に報告しなければなりません。
- 即時電話連絡:事故発生を知った時点で、所轄労基署に電話で一報を入れる
- 様式第23号の速やかな提出:書面による正式報告も速やかに行う
- 現場の保存:労基署の調査が入るまで事故現場の状態を保存する(可能な範囲で)
ポイント:労働者死傷病報告は労災保険の請求手続きとは別の義務です。労災保険を使わない場合であっても、業務上の疾病が発生した場合は報告義務があります。報告と労災保険請求を混同しないよう注意してください。
3.報告の手順と期限
熱中症事故が発生した場合の、労働者死傷病報告の具体的な手順を時系列で説明します。迅速かつ正確な報告のために、事前に手順を確認しておきましょう。
報告手順フロー
事実の把握・記録
発症日時・場所・被災者の氏名・年齢・職種・症状を正確に記録する。発症時の気温・WBGT値・作業内容・作業時間なども合わせて記録する。
提出先の確認
事業場の所在地を管轄する労働基準監督署を確認する。不明な場合は都道府県労働局に問い合わせる。
様式の準備
休業4日以上→様式第23号、休業1〜3日→様式第24号を準備する。厚生労働省のウェブサイトまたは労働基準監督署の窓口で入手できる。
記載事項の記入
事業場の名称・所在地、被災者情報、災害発生の年月日時、災害発生の場所、災害の原因及び発生状況を漏れなく記入する。
提出・控えの保管
労基署へ提出し、受付印を押された控えを保管する。電子申請の場合は受理通知を保存する。社内の安全衛生記録としても保管する。
様式第23号の主な記載事項
事業場に関する情報
- ・ 事業場の名称、所在地
- ・ 事業の種類
- ・ 労働保険番号
- ・ 事業場の労働者数
被災者に関する情報
- ・ 氏名、生年月日、性別
- ・ 職種、経験年数
- ・ 雇入年月日
- ・ 休業見込日数
災害に関する情報
- ・ 災害発生の年月日時
- ・ 災害発生場所
- ・ 傷病の部位・傷病名
- ・ 災害の種類(疾病)
発生状況の詳細
- ・ 災害発生状況の詳細記述
- ・ 原因となった物質・環境
- ・ 略図(発生場所の見取り図)
- ・ 再発防止対策
様式のダウンロード
労働者死傷病報告の様式は、厚生労働省のウェブサイトから無料でダウンロードできます。また、電子申請(e-Gov)を利用すればオンラインで直接提出することも可能です。
- ・ 厚生労働省「各種届出様式」ページから様式第23号・第24号をPDFでダウンロード
- ・ e-Govの電子申請では、入力フォームに沿って記入するだけで報告書を作成・提出可能
- ・ 事前に様式を印刷して現場に常備しておくことを推奨
4.報告遅延・隠蔽のリスク
労働者死傷病報告を怠ったり、虚偽の内容で報告したりすることは「労災隠し」として厳しく取り締まられています。罰則だけでなく、企業の社会的信用にも深刻な影響を及ぼします。
労働安全衛生法第100条・第120条違反
労働者死傷病報告の不提出・虚偽報告は、労働安全衛生法第100条(報告義務)に対する違反となり、第120条により50万円以下の罰金が科されます。法人に対しても同様の罰金が科される両罰規定が適用されます。
罰則の根拠条文
- ・ 労働安全衛生法第100条第1項:事業者の報告義務
- ・ 同法第120条第5号:50万円以下の罰金
- ・ 同法第122条:両罰規定(法人にも罰金)
書類送検された「労災隠し」の事例
厚生労働省は毎年「労災隠し」の送検事例を公表しており、熱中症関連の事案も含まれています。特に以下のようなケースが送検の対象となっています。
- 熱中症で救急搬送された作業員について、事業者が「自己都合の体調不良」として報告しなかった
- 熱中症による休業日数を実際より少なく報告し、様式第24号で済ませた
- 下請け業者の作業員が熱中症で入院したが、元請けが報告書を作成しなかった
企業イメージ・経営への影響
労災隠しが発覚した場合、罰金以上に深刻なのが企業への間接的な影響です。
- 公共工事の入札参加資格停止:指名停止処分を受け、一定期間入札に参加できなくなる
- 元請けからの取引停止:安全管理体制を疑われ、下請け契約を解除される
- 報道による社会的信用の失墜:「労災隠し」はメディアが注目するテーマであり、企業名が報道される
- 労基署の重点監督対象:一度信頼を失うと、その後の立入検査の頻度が上がる
重要な注意点
「軽症だから報告しなくてもよい」という判断は大きなリスクを伴います。熱中症による休業が1日でもあれば報告義務が発生します。判断に迷う場合は、必ず所轄の労働基準監督署に相談してください。
5.heat119で迅速な報告を支援
熱中症事故が発生した際、迅速かつ正確な報告を行うためには、日頃からの記録の蓄積が不可欠です。heat119は、報告書作成に必要な情報を日常的に自動記録するシステムです。
発症記録の自動保存
体調不良の申告日時・内容・対応内容がシステムに自動記録されます。「いつ・誰が・どのような症状を申告し・どう対応したか」を正確に再現でき、報告書の記載をスムーズに行えます。
WBGT記録で因果関係を証明
発症当日のWBGT値が時系列で記録されているため、「業務起因性」の判断材料を客観的なデータで示すことができます。労基署への報告や労災申請の際の重要な証拠となります。
体調確認記録の証跡
毎朝の体調確認データが蓄積されているため、発症前後の被災者の体調変化を時系列で追跡できます。「体調不良の兆候を見逃していなかったか」という点を記録で証明できます。
報告用データの一括出力
発症日の環境データ・体調記録・対策実施状況をレポートとして一括出力できます。労基署への報告書作成に必要なデータを漏れなく揃え、正確な報告を支援します。